2026年、日本の米価格は前年比で2倍以上に高騰し、今もなおその勢いは止まらない。しかし、多くの米農家にとってその恩恵は乏しく、逆に生活の苦しさを訴える声が広がっている。今年3月末、東京都心で「時給10円」を掲げたデモが行われ、農業の実情が注目を集めた。
このデモは「令和の百姓一揆」と名付けられ、青山から代々木公園まで、約30台のトラクターと共に、全国から集まった農家や支援者3000人以上が行進。トラクターには「未来の子どもたちに国産の食を」「すべての農民に所得補償を」などののぼりが掲げられた。
主催は「令和の百姓一揆実行委員会」。代表の菅野芳秀さん(75)は、山形県長井市で5ヘクタールの水田と養鶏場を営む農家である。今回の行動に踏み切った背景には、「このままでは日本の農業が崩壊する」という強い危機感があったという。
「私たち米農家は時給10円。農業を続けるな、農地を手放せと、無言で言われているようなものです」と菅野さんは語る。
この「時給10円」という言葉の根拠は、農林水産省が公表した2022年度の農業経営統計調査による。水田作経営を行う農家の年間平均農業所得はわずか1万円。それを年間労働時間1003時間で割ると、時給は約10円となる。国会でも取り上げられ、社会的な反響を呼んだ。
一方、2024年夏以降、米の小売価格は跳ね上がり、消費者の負担は明らかに増えている。しかし生産者、特に中小規模の農家には、その利益は届いていないというのが現状だ。
本特集では山形県の米農家を中心に実情を取材。その中で明らかになったのは、農家の「規模の差」が収益に直結しているという事実だった。大規模農業法人の中には、年間所得が1000万円を超えるところもある一方で、小規模農家では赤字すれすれの経営が続いている。
だが希望もある。山形では近年、若い世代の新規就農者が少しずつ増えている。IT技術を取り入れたり、直接販売で付加価値をつけたりと、工夫を重ねながら農業を志す若者たちが地域を支えている。
「ここから始まる。これが終わりじゃない」──菅野さんの言葉には、農業の未来への諦めではなく、再生への希望が込められている。
米価が上がっても報われない農家がいる一方で、所得格差が広がる現実。日本の農業の仕組みそのものが、今、大きな問いを突きつけられている。
