空き家の増加は、もはや地方だけの問題ではありません。都市部でも人の気配が薄れ、かつて住宅地だったエリアが静まり返るケースが見られるようになっています。こうした状況を打開するヒントとして注目されているのが、「職」と「住」を一体で考える住まいの在り方です。
今回紹介するのは、長年使われていなかった市営住宅を再生し、暮らしと仕事が共存する街へと生まれ変わらせた取り組み。舞台は、横須賀線の中でも利用者数が少ない駅の近くに位置する高台の住宅地です。
使われなくなった住宅地が抱えていた課題
全国的に空き家問題が深刻化する中、2020年に役割を終えた市営住宅群がありました。老朽化と住民の高齢化が進み、全戸退去後は建物だけが残された状態に。眺望に恵まれた立地でありながら、次第に人が寄り付かなくなり、地域の活気も失われていきました。
そこで自治体は、この場所の魅力を生かしながら、新たな価値を生み出す活用方法を模索。地域コミュニティの再生をテーマに事業者を募り、再生・リノベーションを得意とする企業がプロジェクトを担うことになりました。
キーワードは「なりわい」
暮らしと仕事が共存する住まい
プロジェクトの核となったのが「なりわい住宅」という考え方です。住まいとして暮らしながら、同時に店や仕事の場としても使う。日常と仕事が切り離されないことで、人の往来や交流が自然に生まれ、街に動きが生まれます。
かつて約70戸あった建物は修繕と改修を経て数を調整。一部は2戸をつなげることで、より自由な使い方ができる住戸も用意されました。現在は多くの住戸で新たな生活が始まっています。
初期負担を抑えた柔軟な住戸プラン
特徴的なのは、住戸の仕上げを複数の段階から選べる点です。内装をあえて整えず、自由に手を加えられる状態から、すぐに生活や店舗運営が可能な仕様まで用意されています。
これにより、入居者は自分のスタイルや予算に合わせて選択が可能。新しい挑戦を始める際のハードルを下げ、小さくスタートできる環境が整えられています。共用のワークスペースやランドリー、入居者向けの設備も用意され、日々の暮らしを支えています。
「ここでなら挑戦できる」と感じた理由
この街で新たに店舗を構えた一人が、こだわりの品を扱うセレクトショップの運営者です。長年業界で経験を積んだ後、自分の表現を形にできる場所を探していたといいます。
初めて現地を訪れた際、整備が進む前の姿を見て直感的に可能性を感じたそうです。建物の佇まい、周囲の自然、そして土地が持つ時間の積み重ね。それらが混ざり合い、「ここなら自分らしい場をつくれる」と思えたことが決め手になりました。
店と暮らしが近いからこそ生まれる余白
店舗と生活空間が近いことで、時間の使い方にも余裕が生まれます。家族と過ごす時間を大切にしながら仕事ができる点も、この住まい方ならではの魅力です。
また、初期費用や月々の負担が現実的な範囲に収まることで、若い世代でも挑戦しやすい環境が整っています。「同じことを都心でやろうとしたら、もっと大きな資金が必要だったはず」と話します。
共通の価値観がつなぐ、新しいコミュニティ
この街に集まる人々には、「何かを始めたい」「自分の手で場をつくりたい」という共通点があります。業種は異なっても、価値観が近いため自然と助け合いが生まれ、刺激を受け合える関係が築かれています。
歴史ある土地を土台にしながら、そこに新しい色を重ねていく。外から訪れた人がこの場所の名前を挙げるようになれば、それ自体が街の新しい魅力になる――そんな未来を思い描く入居者も少なくありません。
ゴーストタウンから、期待が集まる街へ
かつて人の気配が消えていた場所に、再び暮らしと仕事の音が戻ってきました。古さを否定するのではなく、そこに新しい価値を重ねていく。その積み重ねが、地域再生の一つの答えなのかもしれません。
「なりわい住宅」という考え方が示すのは、空き家対策だけではなく、これからの暮らし方そのもの。月見台のような取り組みが、全国各地に広がっていく可能性も感じさせます。
